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一枚の写真から思い出したこと ――ツベックマーキャンプの窓辺から

思い出の記録

ツベックマーキャンプの窓辺で思い出したこと

一枚の写真から、草原の記憶とツェベクマさんのことを思い出しました。

写真を整理していた時、一枚の写真が目に留まりました。 ツベックマーキャンプの窓辺で撮った写真です。

窓の外には草原が広がり、その向こうには岩山が見えます。 テーブルの上には、赤いアニスのジュース。 おそらく数年前に撮った写真だと思います。

その写真を眺めているうちに、ふとツェベクマさんのことを思い出しました。 そういえば、ツェベクマさんは1926年生まれでした。 今年2026年は、生きていれば100歳になる年です。

たまたま見つけた一枚の写真から、懐かしい記憶が少しずつよみがえってきました。 それは研究というより、家族の記憶に近いものです。

ツベックマーキャンプの窓辺

ツベックマーキャンプは、テレルジの大自然の中にあります。 青い空、白い雲、広がる草原、ゲル、そして岩山。 その風景の中にいると、モンゴルの広さと静けさを全身で感じます。

窓辺に座って外を眺めているだけで、時間がゆっくり流れていくようでした。 何か特別なことをしていたわけではありません。 ただ草原を眺め、アニスのジュースを飲み、静かな時間を過ごしていました。

今になって思うと、そういう何気ない時間こそ、 いちばん心に残っているのかもしれません。

ツェベクマさんのこと

ツェベクマさんは、司馬遼太郎『草原の記』の主人公として知られています。 シニヘン・ブリヤート・モンゴル人女性として、激動の時代を生きた方です。

けれども、私にとってのツェベクマさんは、本の中だけの人物ではありません。 親族とのつながりの中で、何度も訪ねた場所にいた人であり、 その暮らしぶりや声、家の中の雰囲気まで思い出すことができます。

家の中はいつもきれいに整えられていました。 そしてツェベクマさんは、いつもモンゴル衣装を身に着けていました。 その姿は、特別な日のための装いというより、 日々の暮らしの中でモンゴルの文化を自然に大切にしている姿でした。

訪れるたびに、ツェベクマさんが作ってくださったご飯を、 いつも美味しくいただきました。 その味は、旅先の食事というより、家族の食卓の記憶に近いものでした。

また、ツェベクマさんがとても流暢な日本語で、 日本から来た方々と自然に会話していた姿もよく覚えています。 その日本語は、単なる言葉の力ではなく、 長い人生の中で日本と向き合い、人と人をつないできた証のように感じられました。

私が日本から来た日本人観光客の方々を案内した時には、 ツェベクマさんが服装を用意してくださったり、 現地でのふるまいや案内の仕方について、いろいろと教えてくださいました。

その一つひとつは、単なる観光の準備ではなく、 訪れる人を大切に迎えるための心づかいでした。 私はその姿から、モンゴルのもてなし、そして人と人をつなぐことの大切さを学びました。

『草原の記』と家族の記憶

司馬遼太郎『草原の記』を読むと、ツェベクマさんの人生が大きな歴史の中で描かれています。 ブリヤート人の移動、呼倫貝爾、シニヘン、満州国時代、そしてモンゴル国。 一人の女性の人生の中に、20世紀のモンゴル世界の歴史が重なっています。

けれども、私が今回思い出したのは、歴史の中のツェベクマさんだけではありません。 きれいに整えられた家、モンゴル衣装を着た姿、美味しいご飯、 日本語で日本人と話していた声。

そうした小さな記憶が、一枚の窓辺の写真からよみがえってきました。

受け継がれる場所

ツベックマーキャンプは、ツェベクマさんの名前を受け継ぐ場所です。 現在もご家族によって大切に守られています。

ツェベクマさんの娘であるイミナさん、そしてそのご主人である ジグジドジャブ・バータルツォグト氏は、 日本とモンゴルの交流に長く関わってこられました。

バータルツォグト氏は、モンゴル日本文化交流促進「アリアンス」協会の会長として、 文化、芸術、学術交流を支えてこられました。 その功績により、2025年秋の外国人叙勲受章者として発表され、 2026年に旭日双光章の受章式が行われました。

ツェベクマさんがつないだ日本との縁は、 今もご家族によって静かに受け継がれているのだと思います。

一枚の写真から

たまたま見つけた、数年前の窓辺の写真。 その一枚から、思いがけず多くのことを思い出しました。

窓の外の草原。
テーブルの上のアニスのジュース。
そして、ツェベクマさんの記憶。

今年、生きていれば100歳。 そう思うと、懐かしさとともに、感謝の気持ちがこみ上げてきます。

ツベックマーキャンプの窓辺の写真は、 私にとって、ただの旅の写真ではありませんでした。 それは、家族の記憶と、草原の時間を思い出させてくれる一枚でした。

参考文献・参考資料

  • 司馬遼太郎『草原の記』
  • ツェベクマ『星の草原に帰らん』
  • 鯉渕信一「モンゴルで『アブミを伸ばす』司馬さん――司馬遼太郎:モンゴルの旅その後」
  • モンゴル日本文化交流促進「アリアンス」協会関連資料
  • 在モンゴル日本国大使館 令和7年秋外国人叙勲受章者発表資料